ウイスクテールの人気メニュー、ジパングサワーをシェークする静谷さん(今年2月撮影)

 たとえ外出できなくても、おいしいお酒を楽しみたい。一日の終わりに、休日の昼さがりに。居間や寝室、縁側で。心と体に染み入る幸福の一杯。お酒を愛する人々の物語と、通の家飲みをお届けします。

日本でもウイスキーベースで

 ウイスクテール(Whisktail)という言葉をご存じだろうか。新宿で2店のバーを営み、愛好家団体・ウイスキー文化研究所の最難関資格「マスター・オブ・ウイスキー」を持つ静谷和典さん(35)の造語で、2017年に商標登録されている。
 ウイスクテールとはウイスキーベースのカクテルの意味。静谷さんはバーテンダーチーム「Whisktail.tokyo」の代表として、仲間のバーテンダーと一緒に140近くを創作してきた。
 海外ではオールドファッションドやウイスキーサワーといったウイスキーベースのカクテルが圧倒的な人気だが、国内ではマティーニやジントニック、ギムレットといったジンベースの存在感が勝る。ウイスキーベースのカクテルをもっと広めたい、と目論(もくろ)むが、それだけではない。
 この10年で、ウイスキー人気は急上昇した。サントリーが女優の小雪や菅野美穂、井川遥らを起用して仕掛けた角ハイボールのキャンペーンを展開し、ニッカウヰスキー創業者の竹鶴政孝に焦点を当てたNHK連続テレビ小説「マッサン」が放映された影響も大きい。とはいえ、水割りやハイボールで楽しむ人が大多数で、アルコール度数の高いウイスキーを、より生に近いストレートやロックで楽しむことへのハードルはまだ高い。「ハイボールや水割り」から「ストレートやロック」へ、両者の中間に位置するアルコール度数のウイスクテールを橋渡しにしたいというのが静谷さんの考えだ。

ウイスクテールのサロン・ド・ファッションド。定番カクテルのオールドファッションドをほうじ茶のリキュールと升で演出

サントリーとニッカの「握手」

 ウイスクテールのなかでも、外国人に人気なのがジパングサワー。サワーといっても炭酸はなし。ウイスキーにレモンジュースを加えた、爽快なカクテル、ウイスキーサワーを日本風にアレンジした。
 フルーティーで豊かな香味のサントリー「山崎」と、スモーキーで力強い味わいのニッカウヰスキー「余市」をベースに、シェークして完成したカクテルが大きな朱色の杯に注がれる。卵白が加えられているせいか、対照的なシングルモルトの個性が混然一体に感じられる。舌の上に液体をとどめると、幾つもの味の花が波頭のように口内の小宇宙を漂った。
 特筆すべきはサントリーとニッカの「共演」。日本のウイスキー造りの師匠スコットランドでは、メーカー系列が異なる蒸留所の原酒を組み合わせたブレンデッドウイスキーは珍しくない。蒸留所同士で原酒を交換し、独立した瓶詰め業者が蒸留所から原酒を取り寄せてブレンドする。一方、日本のメーカーはブレンデッドウイスキーをつくる際に、国内の他社の原酒は使ってこなかった。

ウイスクテールの人気メニュー、ジパングサワーを杯に注ぐ(今年2月撮影)

 そんな慣行を意識し、静谷さんはコラボすることのなかった日本の二つのウイスキーを、バーテンダーの視点からカクテルで握手させた。カクテルのエスプレッソマンハッタンでは、トウモロコシが主原料のアメリカのバーボンと、スコッチを合わせてみた。自由自在にカクテルを考案する静谷さんだが、ウイスキーの香味を生かすこと、そして、ウイスキーとその造り手への敬意を表することをルールとしている。
 折しもサントリーは昨年、日本とスコットランド、アイルランド、アメリカ、カナダにある自社の蒸留所でつくった原酒をブレンドしたウイスキー「碧Ao」(アオ)を発売した。世界五大ウイスキーの原酒のみを組み合わせたウイスキーは世界初の試みだ。
 ジャパニーズウイスキーの人気が世界的に高まり、国産ウイスキーの原酒不足は深刻だ。質の高い原酒に頼れなくなる状況で、新たな日本のウイスキーをどう世界に発信していくのか。創意工夫が求められている。

「グレンマッスル」のボトル

オリジナルボトル数分で完売

 今年4月、オリジナルボトル「グレンマッスル」のネット販売が始まった。税別7500円、限定150本のボトルは数分で売り切れた。グレンマッスルは、静谷さんが仲間と、国内で生まれつつある小規模蒸留所が保管する原酒を選び、ブレンドしたものを独自に瓶詰めする企画。ラベルにデザイナーを使わないなどコストを抑える工夫で、入手しやすい価格を目指している。
 「ウイスキーの値段が上がり続けているので、本当に好きな人にもっと気軽に楽しんでほしい」と話す静谷さん。同じくらいの品質の製品の半額程度に抑えられたと自負する。
 2010年代半ばから、日本酒や焼酎を手がける国内の酒造会社や異業種から、ウイスキーやジンの蒸留所の運営に乗り出す動きが加速し、クラフト蒸留所ブームが到来している。静谷さんは、こうした国内の蒸留所との連携を深めていきたいと考えている。日本初の本格的な国産ウイスキーを生産する山崎蒸留所が誕生したのは1923年。ジャパニーズウイスキーの誕生から間もなく100周年の節目を迎える。(クロスメディア部 小坂剛)

コーヒーにアプリコットジャムを使ったウイスクテール

【静谷和典の家飲み】……コーヒーやカルピスのウイスクテール

 家で作れるウイスクテールを二つご紹介します。まずはコーヒーを使ったカクテルから。トウモロコシなどの穀類を主原料とするグレーンウイスキー「知多」を30ミリ・リットルと、アプリコットジャムをスプーン2杯分入れ、よくかき混ぜます。そこに氷、アイスコーヒー(できれば水出し)を30~45ミリ・リットル、そしてトニックウォーターを加えてかき混ぜ、カットオレンジを載せれば完成。アプリコットとオレンジは最強の組み合わせ、ジャムは高級なものをオススメします。ウイスキーは、シェリー樽(だる)で寝かせたモルトウイスキー(大麦麦芽が原料)も合います。

カルピスを使ったウイスクテールは夏の味わい

 続いてカルピスを使った暑い日にオススメのカクテル。氷を入れたグラスに、ジョニーウォーカーのブラックラベル(いわゆるジョニ黒)30ミリ・リットルに、カルピスの原液を同量もしくは45ミリ・リットル、そこに炭酸を加えてかき回します。底に重たい糖質が沈んでいるので、氷を持ち上げるように上下に混ぜるのがコツ。オレンジ皮で作ったリキュールのブルーキュラソーを加えると、色合いがきれいになります。甘いカルピスと、スモーキーなウイスキーという正反対な味が組み合わさり、独特の味わいがあります。

【静谷和典】
 1985年生まれ。栃木県出身。作新学院高校時代は競歩の選手として活躍。国士舘大学政経学部卒業後、アパレル業界を経てバーテンダーに。2019年にウイスキー文化研究所の最難関資格「マスター・オブ・ウイスキー」を取得。「BAR Shinjuku Whisky Salon(バー・新宿ウヰスキーサロン)」と「BAR LIVET」を営む。
・ユーチューブ「【Master of Whisky】シズタニエン」
https://www.youtube.com/channel/UCKHHLiBLY_7zmsYxjlD808w)。
・「BAR Shinjuku Whisky Salon(新宿ウヰスキーサロン)」
https://www.facebook.com/BAR-Shinjuku-%EF%BC%B7hisky-Salon-%E3%83%90%E3%83%BC%E6%96%B0%E5%AE%BF%E3%82%A6%E3%82%A4%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%BC%E3%82%B5%E3%83%AD%E3%83%B3-288175425104680/
・「BAR LIVET(バー・リベット)」(https://www.facebook.com/mr.glenlivet4f/

 ※ウイスキーの基礎知識はこちら(https://liqul.com/entry/3306 )(「酒育の会」ウェブサイト内)をご覧ください。

<筆者紹介>
 小坂剛(こさか・たけし)読売新聞クロスメディア部次長。秋田支局、社会部、メディア局などを経て現職。お酒と食べ物に好き嫌いなし。著書に「酒場天国イギリス」「あの人と、『酒都』放浪」(いずれも中央公論新社)。酒文化の紹介がライフワーク。

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