ラベルがユニークなボトラーズもののウイスキー

 たとえ外に出られなくても、おいしいお酒を楽しみたい。一日の終わりに、休日の昼さがりに。居間や寝室、縁側で。心と体に染み入る幸福の一杯。お酒を愛する人々の物語と、通の家飲みをお届けします。

色鮮やかなラベルの意味

 山手線の目黒駅近くでモルトバーを営む鈴木徹さん(57)が提供するボトルで目を引くのは、三国志の英雄やミュージシャン、草花をモチーフとした色鮮やかなラベル。

びっしりと棚に並ぶシングルモルト

 蒸留所で瓶詰めしたオフィシャルボトルではなく、ボトラーズと呼ばれる瓶詰め業者が販売するボトルだ。瓶詰め業者は、蒸留所からウイスキーを熟成させた樽(たる)を選んで買い、さらに熟成させたり、ブレンドしたり、独自の工夫を加えて販売する。
 店に瓶詰め業者のボトルが多い理由について、鈴木さんは「オフィシャルより安いこともあるし、バリエーションが豊富だから」と説明する。この数年、ウイスキーの人気が急上昇したアジア圏からの客の要望に応えたことも一因だ。

生活費を稼ぐ猫

鈴木さんの愛猫を入れたプライベートボトル

 鈴木さん自身も蒸留所やボトラーと協力し、30種類以上のボトルを出してきた。鈴木さん宅で暮らす、猫の「りぼんちゃん」が鈴木さんのボトルのシンボルとなっている。
 14年前、著名なウイスキー収集家が、生まれたての子猫とともに店を訪れた。3匹生まれたので、猫好きの鈴木さんに1匹引き取ってもらおうとしたのだった。最初は断ったが、子猫は何度か連れてこられた。カウンターの上でうずくまりニャーと泣く子猫を見ているうちに情が移り、飼うことを承諾した。
 りぼんちゃんがラベルに載った鈴木さんのプライベートボトルは、特にアジア圏で人気があり、発売すると半日で売り切れる。「猫が信頼のブランドとなり、自分の“生活費”以上のものを稼いでくれている」という。
 2018年7月に発売したボトルのラベルには、天の川を見上げるりぼんちゃんを描いた。鈴木さんの親しい香港のバー経営者の愛猫に恋焦がれる設定だったが、リリース直前に経営者の猫が急死。鈴木さんは次のボトルで、りぼんちゃんが探しに行く場面をラベルにした。
 かつて、スコットランドの蒸留所では、原料の大麦を食い荒らすネズミや小鳥を退治してもらおうと、猫を飼っていた。ウイスキーキャットと呼ばれ、グレンタレット蒸留所にいたタウザーという猫は3万匹近いネズミを捕まえギネスブックに載り、彫像にもなっている。猫は蒸留所の守護神だった。ウイスキー好きには猫好きが多い所以(ゆえん)かもしれない。

開店前、カウンターに座る鈴木さん

コロナ禍で消えた外国人客

 鈴木さんは24年前にスコットランドを旅して以来、買い付けやイベントの出店でヨーロッパやアジア各国を訪れ、海外に人脈を築いた。フェイスブックを始めとしたSNSで積極的に情報発信し、外国人客も取り込んできた。
 だが、新型コロナウイルスの世界的な流行で、状況は一変。約半分を占めていた外国人客は突然、消えた。「前のように外国からのお客さんが来ることは、この先何年かは望めないんじゃないかと思うんです」
 確かなのは、今までと同じことをやっていては、店の経営は成り立たないということ。あらゆる味のシングルモルトをそろえた「非日常の空間」を提供することで成り立つモルトバーのビジネスモデルだが、それだけでは固定費を維持するのも厳しい。プライベートボトルの販売を拡大し、オンラインでのイベントなど、新たな収益源を開拓する必要がある。
 バー業界に飛び込んで30年以上。バブル経済とその崩壊、リーマンショック、東日本大震災という荒波をその都度、才覚とセンスで乗り越えてきた鈴木さんだが、今が一番の試練と感じている。(クロスメディア部 小坂剛

ラフロイグ10年

<鈴木徹の家飲み>……ピートのきいたラフロイグ

 前回紹介した穏やかな味わいのアラン10年の対極にあるシングルモルトがラフロイグ10年(もしくはラフロイグセレクト)です。ラフロイグは、スコットランド・アイラ島の海沿いに立つ蒸留所で、麦芽を乾燥する際にピート(泥炭)を使い、薬品・ヨードのような臭いが特徴。スモーキーでヘビーな味わいで、ストレートやロック、ソーダ割りでもいけます。
 家に、アランのようなピートを使っていない穏やかなボトルと、ラフロイグのようなピートを利かせたボトルを2本そろえ、料理や気分に応じて飲み分けるのもおススメです。昔、スコットランドに行ったとき、生ガキにいろんなウイスキーをかけて食べてみましたが、ラフロイグが一番おいしかったです。

※ウイスキーの基礎知識はこちら(https://liqul.com/entry/3306 )(「酒育の会」ウエブサイト内)をご覧ください。

鈴木徹】1963年生まれ。都立工芸高校卒業後、デザイン業界を経て、バー業界に。渋谷や自由が丘のバーで働いた後、2004年から東京・目黒にモルトバー「ザ・マッシュタン トウキョウ(THE MASH TUN TOKYO)」
https://www.facebook.com/THE-MASH-TUN-TOKYO-139687289390243
)を営む。趣味は競馬、好きな言葉は「直線一気」「勝負は4コーナーから」。「偏屈そうに見えるかもしれないが、本当はシャイ」な性格とは本人弁。

筆者紹介
小坂剛(こさか・たけし) 読売新聞クロスメディア部次長。秋田支局、社会部、メディア局などを経て現職。お酒と食べ物に好き嫌いなし。著書に「酒場天国イギリス」「あの人と、『酒都』放浪」(いずれも中央公論新社)。酒文化の紹介がライフワーク。

←「モルトの世界へようこそ〜ウイスキーラバーは猫が好き(上)」
→次回、「草根木皮すべてをカクテルに〜日本アブサンの父と呼ばれたい(上)」

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