シュワッチの街にホーホケキョがやってきた。小田急線祖師ヶ谷大蔵駅(東京都世田谷区)は、南北に長いウルトラマン商店街で知られる。駅北口の広場にはウルトラマン像があり、本物のウルトラマンが登場したような大迫力の写真が撮れて驚いた。その駅からすぐの場所に昨年10月に開店したラーメン店、鶯屋(うぐいすや)を訪れた。

駅前の案内板にもウルトラマンが描かれている。

清潔感のある店の外観

 白い暖簾(のれん)提灯(ちょうちん)のかかるカウンター8席の店は、清潔感があり、凜としたたたずまいを見せる。通りに面した券売機で定番メニューの一つ、塩ラーメン(800円)を購入。「いらっしゃいませ」と、清和克彦店長(32)の親しみを感じさせる笑顔と声に迎えられ、カウンター席についた。5分もしないうちに塩ラーメンがカウンターに置かれた。

透明感のあるスープにたっぷりのうまみ

 「なんて美しい透明感のあるスープだろう」と最初に思った。白い丼に青で描かれた鶯屋の屋号もスープにつかった部分まではっきりと見える。黄金色に輝くそのスープを一口いただくと、あっさりとした優しい味わいの中に、しっかりとコクとうまみも感じられる。幸福感に全身が満たされていく。
 清和さんが説明する。「魚介のみで仕上げたスープです」。昆布、いりこ、かつお節をブレンドし、和食の一番だしのイメージで毎日スープをとっているそうだ。だから、澄んだスープができあがる。
 でも、それだけでは味が薄く、物足りない。清和さんが続ける。「返しに紹興酒や白ワインビネガーを使い、コクを出しています」。また丼に最初に入れる油は、銀座の高級天ぷら店でも使われ、胡麻(ごま)の香りがきつくない「太白(たいはく)胡麻油」を使用しているそうだ。
 「なるほど」と納得しながら、次は麺をいただく。全粒粉が配合された中細のストレート麺は、歯切れがよく、小麦の香りが感じられる。こちらはラーメン通の間では知られた東京・西蒲田の菅野(かんの)製麺所に特注でつくってもらっているという。

全粒粉を配合した麺。小麦の香りがしっかり感じられる

 トッピングは、もち豚のバラ肉チャーシューとモモ肉のレアチャーシュー、ネギと三つ葉、極太メンマ、ナルトがのる。チャーシューはどちらも自家製で、真空状態にして低温調理器でつくるレアチャーシューは美味だ。すべてがバランスよく調和し、満足感の高い一杯だった。

特製塩ラーメン(¥1300)、煮卵やワンタンが追加され、豪華になる

常識を打ち砕く独創性

 清和さんは、東京・九段北の有名店「八咫烏(やたがらす)」で半年間修業して鶯屋の店長に就任した。八咫烏では基本を徹底的に勉強しただけではない。「こんなラーメンもできるんだ」と、店主の発想力、独創性に感動し、ラーメンに抱いていた固定観念が完全に打ち砕かれる日々だったという。
 清和さんはその経験を生かし、夜間に限定メニューを出している。ゴールデンウィークで終了した春の限定は「真鯛(まだい)胡麻(ごま)だれラーメン」だった。そのメニューに使うための届いたばかりの立派な鯛を見せてくれた。胡麻と豆腐をベースにしたまろやかなたれに、冷水で締めた麺。その上に鯛の昆布締め、新タマネギと南高梅のマリネ、とろろとしば漬けを合わせ、レモンがのり、これらを混ぜて食べる。これに鯛ごはんと桜の花の吸い物がついて、1300円で提供し、大人気だった。

「真鯛の胡麻だれラーメン」に使う立派なタイ

 飲食の世界で10年ほどキャリアのある清和さんは、オープンキッチンのカウンターでお客さんと会話しながら料理をつくっていた時もある。だから接客は板についていて、生来の優しい人柄もあいまって店の雰囲気は温かい。もともとラーメンは好きで、居酒屋時代にも独自に提供していたのだが、ラーメンの奥深さを知った今は、さらに磨きをかけようと頑張っている。

特製醤油ラーメン(¥1300)

神話の世界と紀州とのつながり

 ところで、なぜ鶯屋なのか。店のオーナーが和歌山県出身で、実家は「紀州鶯屋」という梅酒の会社を経営していることが大きい。でも、こんなつながりもある。清和さんが修業したラーメン店の八咫烏とは、アマテラスオオカミの命を受け、神武天皇を熊野から奈良まで案内したという神話の鳥。日本サッカー協会のシンボルにもなっている八咫烏は、「導きの神」として和歌山県の熊野本宮大社で信仰されている。神話の鳥ではあるが、和歌山に縁があり、鶯と同じ鳥である。店内には、立派な神棚があり、熊野本宮大社の八咫烏の絵馬が飾ってある。

優しく、丁寧な接客をする清和さん

 「次に来られたときは、梅しそラーメンを食べてください」と、清和さんに言われた。塩ラーメンをベースに、紫蘇(しそ)の油を使い、紀州南高梅がのった珍しいラーメンなのだという。オープンから半年。清和さんは「地元の人に愛される店にしていきたい」と話した。ラーメンと、清和さんの人柄に触れ、その様子がくっきりと頭に浮かんだ。


森太さん
森 太(もり・ふとし)

読売新聞編集委員。ロンドン駐在中に日本のラーメンの魅力を再発見。アフリカ、欧州、社会部、国際部、運動部を遍歴し、読売新聞の英字新聞「The Japan News」デスク。The Japan NewsでRamen of Japan 連載しているほか、Delicious, Beautiful, Spectacular Japanを担当している。


【英語版はこちら】

Uguisuya: Delicious clear seafood-based broth with a unique touch

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