「フレンチ気分でラーメンを」。ラーメン店「サーモンnoodle3.0」は今年1月、そんなキャッチフレーズを掲げて、東京・神楽坂にオープンした。名前の通り、サーモンラーメンの専門店である。食材をムース状にするエスプーマ、最新の分子調理器を使ったヘルシーな揚げ物、ラーメン店とは思えないシックな内装……。大人の街・神楽坂に登場した話題豊富な人気店を訪ねた

店舗の外観。看板がなければラーメン店にはみえない

 店は、東京メトロ東西線神楽坂駅の1a出口から徒歩2分、神楽坂通りから入った小路にある。奥行きのある店内は、カウンターとテーブルに計20人ほどが着席できる。東京のラーメン店にしては広く、ビストロと言われても納得できる雰囲気に包まれている。ボタンを押すのではなく、画面にタッチする券売機で、おすすめの定番メニュー、白サーモン(税込み930円)を購入し、テーブル席に着いた。

画面タッチ式の券売機

 しばらくすると、浅い大きな丼に見たこともない独創的なラーメンが運ばれてきた。店長の藤岡智春さん(29)が「スープは、サーモンを濃縮したエキス、フレンチのコンソメスープ、豆乳スープでできています」と話した。なるほど、だから白くてクリーミーなんだなと思いながら、一口いただくと、少し塩気のある、まろやかな味わいが広がった。

麺はパスタのようにモチモチだ

エスプーマ、バルサミコ酢、香味油…

 ここからが、このラーメンのだい味となる。スープには、オレンジ色のニンジンのエスプーマ、バルサミコ酢、サーモンの肝の香味油、ブラックペッパー、カイエンペッパーが載っている。これらを少しずつスープと一緒に食べ進めることによって、いろんな味の変化を楽しめるのだ。確かに、バルサミコ酢で酸味を感じ、ペッパーで引き締まった味を感じた。香味油はそれだけで食べると苦みがあるが、スープと一緒になることで味に深みが出ている。そして、甘くておいしいニンジンエスプーマ。これをスープに混ぜると、一層まろやかな味わいになり、うまみが際立った。メニューには、ポルチーニたけのエスプーマが載る「ポルチーニサーモン」(税込み1030円)もある。

おすすめの食べ方。味の変化を楽しめる


スペイン語で「泡」を意味するエスプーマ。スープがムースのように滑らかに

デュラムセモリナの麺にサーモンフライ

 平打ち麺は、もちもちとした食感が特徴だ。小麦はパスタなどに使われるデュラムセモリナで、よりラーメンっぽさを味わいたい人には細麺も選べる。トッピングは、ほうれん草のソテー、低温調理した豚のチャーシュー、サーモンフライと、その上に載ったランプフィッシュのキャビア、揚げた長ネギ、糸唐辛子。見た目も豪華だ。

パスタのタリアテッレのような平打ち麺。濃厚なスープがよくからむ

 サーモンフライは、外はさくっとして、中はしっとり。サーモンの香りがふんわりとこうに広がった。サーモンと長ネギは、食材の水分を保ち、油の吸収を抑える最新の分子調理器でさっと揚げていて、胃にもたれない。

サーモンのうまみを凝縮したエキスを注ぐ

世界初、サーモンのラーメンだけの専門店

 「フレンチのコース料理のエッセンスをこの一杯に凝縮したラーメンです。神楽坂で食べられる最も安いフレンチでもあります」。藤岡さんが笑顔で続ける。「サーモンのラーメンだけを提供している専門店は世界初ではないでしょうか。頭からしっぽ、内臓までサーモンを丸ごと一本、どの部位も無駄にすることなく、つくっているんです」
 ラーメンの概念を超え、最後まで感動しながら味わえる一杯だった。

商社マンから転身して店長に

 サーモンnoodle3.0は、珍しいラーメン店を東京や大阪で展開する会社「縁petit」の直営店の一つだ。メニューを考案したのは、フレンチで14年間修業を積んだ同社の料理長で、これまでにたいなど和の食材と、フレンチを掛け合わせたラーメンを創作している。店名の3.0には、ソフトウェアのバージョンアップのように、一歩ではなく、二歩先をいく進化したラーメンという思いが込められているそうだ。

ラーメンに可能性を見いだして商社マンから転職した藤岡さん

 珍しいのは、ラーメンだけではない。藤岡さんは、ラーメン好きが高じて、大手商社丸紅を退職し、昨年1月からこの会社で働くようになり、系列店での修業を経て、店長に就任したという異色のキャリアを持つ。子どもの頃からバドミントンに打ち込み、大学院で理系の研究をして商社に就職。その頃から毎日のようにラーメンを食べ歩くようになり、インスタグラムで情報発信していた。発信した数は600軒を超える。ある日、今の会社の系列店で食べたラーメンをインスタで紹介したところ、経営者から連絡があり、交流が生まれた。経営者の人としての器の大きさに引きつけられていったという。

おしゃれな店内

 「商社では周りの人にも、待遇にも恵まれていて、そのまま勤めていれば安定した人生があったでしょう。でも、一度きりの人生。やりたいことをしたい」と、転職を決意した。今、商社マン時代の同僚も食べにきてくれる。藤岡さんの生き生きとした立ち居振る舞いに接し、人気の理由は、熱意も伝わってくるからだろうと感じた。


森太さん
森 太(もり・ふとし)

読売新聞編集委員。ロンドン駐在中に日本のラーメンの魅力を再発見。アフリカ、欧州、社会部、国際部、運動部を遍歴し、読売新聞の英字新聞「The Japan News」デスク。The Japan NewsでRamen of Japan 連載しているほか、Delicious, Beautiful, Spectacular Japanを担当している。


【英語版はこちら】

Salmon Noodle 3.0 / Innovative eatery redefining the ramen ‘norm’

【あわせて読む】

【ラーメンは芸術だ!】ウルトラマンの街にある「鶯屋」、透き通ったスープで幸福に浸る
【ラーメンは芸術だ!】パワーあふれる濃厚つけ麺、狼煙本店の味は麺とスープの王者対決
【ラーメンは芸術だ!】大豆ミートの担々麺「T’sたんたん」の驚き、ヴィーガンという選択肢もアリだ

あなたへのおすすめ記事