20年ぶりの名古屋の街は、リニア中央新幹線の工事が進み、名古屋駅西口の古い商店街の一角でも新駅工事が行われていた。時速500㌔のリニアで到着し、地上に出てみれば昔ながらの商店街というギャップも面白いなと想像してみたが、いや、その頃にはこの一角も新しい装いをまとっているのだろうと思い直した。そんな近未来とは対照的に歴史の重みを感じさせる尾張徳川家ゆかりの地、名古屋市東区徳川町の人気ラーメン店「徳川町 如水 本店」を訪れた。

JR名古屋駅前で進むリニア中央新幹線の工事


古い商店街の一角で行われているリニア中央新幹線の新駅の工事


高層ビルがそびえる名古屋駅前

具はチャーシューとメンマのみ

 名古屋駅から車で15分ほどのところにある店は、L字形カウンター13席にオープンキッチンを配した広々としたつくりだ。さっそく一押しメニューの塩ラーメン(780円)を注文した。作ってくれたのは、米ロサンゼルス店の店長で一時帰国中の前原智之(まえはらともゆき)さん(36)。すぐに出来上がり、カウンターに置かれたラーメンは、驚くほどシンプルだった。トッピングは、豚バラ肉のチャーシュー2枚とメンマのみ。それだけ、自信があることの表れなのだろう。

尾張徳川家ゆかりの地にある「徳川町 如水 本店」


店内はL字型カウンターとオープンキッチンの広いつくりだ

 スープをいただくと、見た目の印象とは裏腹に、しっかりとコクがあり、後から魚介出汁出汁(だし)のうまみがやってくる。社長の荒木健夫(あらきたけお)さん(45)が「豚骨と鶏ガラ、魚介を一つの寸胴(ずんどう)鍋で煮込むシングルスープがうちの特徴です」と説明する。最初に地元産の豚骨から煮込み始める。次にやはり地元産の鶏ガラ、最後に宗太鰹(そうだがつお)(さば)の節、うるめいわしの煮干し、日高昆布などを入れる。約30種類の天然素材を毎日、前日から15時間かけて煮込むのだという。

大きな寸胴鍋で煮込んでいるラーメンのスープ


ラーメンを準備をする前原さん

手作りに徹底的なこだわり

 荒木さんは「化学調味料は一切使っていません。手作りに徹底的にこだわっています」と自信を見せる。それが理由なのだろう。このスープはコクとうまみが強い割には、胃にもたれてこない上品さがある。自家製チャーシューは、しっとりとしていて脂の甘みがあり、同じく自家製メンマは少し固めで、シャキシャキとした食感だ。

丼に自慢のスープを入れる

 低加水の特注細麺は、国産小麦と輸入小麦のミックスで、最初はシャープな印象を与える。だが、スープを早く吸う細麺ゆえに、後半はしっかりスープになじんでくる。軽い食感で食べたい人は、早く食べた方がよさそうだ。

麺の湯切りをする前原さん。ダイナミックな動きはきっとアメリカ人にも受けているに違いない


麺線を整える前原さん


低加水の特注細麺はスープがよく絡む

 これはシンプルだからこそ、ストレートにおいしさが伝わってくるラーメンだ。

名古屋名物のあのラーメンも食べてみる

 せっかく名古屋に来たので、もう一つの人気メニュー「如水流たいわん」(830円)も注文した。名古屋といえば、台湾ラーメン。名古屋の台湾料理店で生まれ、唐辛子をたっぷり使い、ニラやニンニク、豚の挽肉(ひきにく)(いた)めた具が載っているのが基本のスタイルだ。名古屋では多くの店で提供されていて、不思議なことに、台湾では「名古屋ラーメン」と呼ばれるらしい。

もう一つの人気メニュー「如水流たいわん」(¥830)


店内に掲示されている「如水流たいわん」のPR

 出来上がったラーメンは、辛そうに見えるが、スープは辛さだけではなく、しっかりとうまみが感じられる。「うちの特徴は、牛脂で豚の挽肉を炒めていることです。これによって、うまみが強く出るんです」と荒木さん。辛味は、自家製のラー油を使い、ネギと刻みタマネギが入っているので、歯ごたえがあり、挽肉とバランスがいい。

メニューには、つけ麺もある


如水本店のメニュー


ラーメンにあうご飯もののメニューもあるー

名古屋に直営5店、ロサンゼルスにも進出

 荒木さんは、ラーメン道一筋で生きてきた。名古屋市内のラーメン店で修業し、約20年前に如水の経営者となった。「すべて手作り」にこだわり、店を拡張してきた。今では名古屋市内に直営の5店舗を構え、それぞれの店で味の異なるラーメンを提供している。早朝から市場の中で営業している人気店もある。近年のチャレンジは、ロサンゼルスに出店したことだ。

メニューの裏に表示されている直営店のリスト


ラーメン道一筋で生きてきた社長の荒木さん(左)と、ロサンゼルス店店長の前原さん

 きっかけは、新婚旅行で訪れたハワイで米国に衝撃を受け、次に訪れたロサンゼルスでさらなる衝撃を受けたことだ。荒木さんが語る。「アメリカ人は、考え方も行動もパワフルなんですよね。その大きさというか、大胆さは日本人と違っていて、とてもいい刺激を受けたんです。『ここでラーメンで勝負したい』と強く思いまして」

 3年前に念願のロサンゼルス店の開店にこぎ着けた。その準備期間中、月の半分は米国に滞在し、食材の調達や味の研究、ビザ取得、営業許可の手続きなどに片言の英語で奔走したそうだ。「前原(店長)と一間だけのアパートを借りて、カーテンレールを付けたり壁を塗ったり、店の内装も自分たちでやったんです」

ロサンゼルス店の外観(如水提供)


ロサンゼルス店の外観(如水提供)

アメリカで「ラーメン」を軌道に

 「すべて手作り」の精神をアメリカで実現したラーメンは大盛況で、「自分でもびっくりするくらいうまいです」と太鼓判を押す。

ロサンゼルス店の店内。名古屋城の絵はスタッフが描いたそうだ。(如水提供)


ロサンゼルス店の店内(如水提供)

 店は現在、現地の従業員に任せているが、コロナワクチンの3回目接種も終えた前原さんは7月にも渡米する予定だ。前原さんは「多民族国家だけあって本当に様々な人が食べに来てくれます。『おいしい』と言ってくれるのがうれしいですね。ラーメンはアメリカ社会に受け入れられているなと感じています」と話した。

 荒木さんが熱っぽく目標を語ってくれた。「日本では、今の料金を変えずに味に磨きをかけ、アメリカでは、店舗を増やし、10年後にはアメリカでの経営を軌道に乗せたいですね」


森太さん
森 太(もり・ふとし)

読売新聞編集委員。ロンドン駐在中に日本のラーメンの魅力を再発見。アフリカ、欧州、社会部、国際部、運動部を遍歴し、読売新聞の英字新聞「The Japan News」デスク。The Japan NewsでRamen of Japan 連載しているほか、Delicious, Beautiful, Spectacular Japanを担当している。


【英語版はこちら】

Josui Honten / Simple, elegant presentation belies rich, multi-layered flavors

【あわせて読む】

【ラーメンは芸術だ!】これぞ小田原の味、インパクト満点の木桶で食べる鯵醤油ラーメン「鯵壱北條。」の斬新さ
【ラーメンは芸術だ!】フレンチのコースを凝縮、神楽坂の進化系ラーメン「サーモンnoodle3.0」の感動
【ラーメンは芸術だ!】ウルトラマンの街にある「鶯屋」、透き通ったスープで幸福に浸る

あなたへのおすすめ記事

酒屋から酒蔵に婿入りした小川原貴夫さん