美しく、おいしく、体にもいい。そんなラーメンを追求している店がJR東京駅の改札内にある。動物性食材を一切使わず、野菜と大豆だけでつくるヴィーガンラーメンの専門店「T’sたんたん エキュート京葉ストリート店」。コロナ禍前は外国人らが行列をつくっていた。初めてこの店を訪れたときは、果たしておいしいのだろうかとあまり期待はしていなかったが、食べてみたらそのおいしさに感動した。「百聞は1食にしかず」。ぜひ話を聞いてみたいと再訪した。

東京駅の構内にあるT'sたんたんの店舗

自由が丘生まれの洗練された麺を東京駅で

メニューの数々。野菜たっぷりだ

 「健康であることが一番大切。食を通して健康の大切さを伝えていきたいのです」。笑顔がチャーミングな下川祠左都(まさこ)さん(65)が語り始めた。下川さんは、東京・自由が丘の「T’sレストラン」のオーナーだ。そこで生まれた担々麺を提供する店として、「T’sたんたん」は2011年にオープンした。こちらは飲食事業などを展開する「JR東日本クロスステーション」が経営する。つまり、T’sたんたんは、下川さんと同社が力を合わせて11年間歩んできた結晶といえる。

「ラーメンを食べて健康について考えるきっかけになってくれればうれしい」と話す下川さん

 広い東京駅構内で、店は八重洲南口改札を入って1分ほどの場所にある。店内は広く、明るく、洗練された雰囲気だ。壁には「ノー・ミート、ノー・フィッシュ、ノー・エッグ、ノー・ミルク」を表したイラストが描かれている。

たっぷりの具材に「うる肌こんにゃく麺」

 まずは看板メニューの「金胡麻(きんごま)たんたん麺」(1100円)を注文した。2人のキッチンスタッフが決して広くはない厨房できびきびと動き、あっという間にできあがった。駅を利用する大勢の人が訪れるため、なるべく待たせないよう麺は20秒でゆで上がるなど、早くラーメンを提供するための研究を重ねてきたという。

手早く提供できるよう工夫された小麦粉の麺

麺をゆでる時間はたったの20秒だ

 テーブルに運ばれてきた金胡麻たんたん麺は、普通のラーメンよりもたくさん具材が載っていて、見ただけでうれしくなる。豆苗、その上にスーパーフードと言われる麻の実、糸唐辛子、白髪ねぎ、大豆もやし。下には大豆ミートの肉みそが隠れている。さらに、真ん中が紅色をしている紅芯(こうしん)大根、ピーナツペースト、小松菜、そしてたっぷりの金胡麻。通常は小麦粉の麺だが、100円の追加料金で、肌に優しいこんにゃくセラミドを配合した低糖質の「うる肌こんにゃく麺」に変更できる。前回訪問時は、こんにゃく麺を黒胡麻たんたん麺で食べた。こんにゃくの臭みが全くなく、弾力があっておいしかった。

「罪悪感」のないコクと満足

 「よくかき混ぜてから食べてください。その方がコクが出ますからね」とアドバイスされ、ぐるぐるとかき混ぜてからスープをいただく。コクもうまみもある。本当にすごいと思う。野菜もおいしく、麺は食べやすい。ピーナッペーストでコクがさらに深まっている。「罪悪感なくラーメンを食べた」という満足感に浸れるではないか。

ラーメンにボール状のヴィーガンチーズを入れて溶かしながら食べるとさらにコクがアップする

 トッピングのヴィーガンチーズ(200円)やヴィーガンチャーシュー(450円)を追加すると、さらに違った味わいが楽しめる。群馬県の豆腐会社「相模屋」が情熱を注いでつくったというチーズは、低脂肪豆乳を使ってつくられていて、一口食べると、本当にチーズの香りと味がして驚いた。これをスープに入れて崩しながら飲む。まったりとした味が広がり、ご飯を入れてリゾットのようにして食べるのもお薦めのようだ。
 「ラーメンといえばチャーシューでしょ」と、下川さんが10年かけてたどりついたという大豆ミートのチャーシューもしっかりと味がしておいしく、まるで本物のチャーシューを食べている錯覚に陥る。
 T’sたんたんのメニューは、ヴィーガンとかベジタリアンとか、難しく考える必要はない。肩肘はらず、ふらっと立ち寄って、だれもが楽しくおいしく食べられる。

持ち帰りメニューの大豆チャーシューの弁当

主婦から経営者に「我慢せずおいしく」

店内はオシャレな雰囲気

 専業主婦だった下川さんはもともと、「サーロインなら脂のところが好きだった」というほど、肉や魚を食べていた。それが、知人が病気になったことをきっかけに健康について考えるようになり、家族に健康食をつくるようになった。「ベジタリアンだからと我慢するのではなく、おいしいものを楽しく食べてほしかった」と下川さん。その思いが強まり、2009年9月のT’sレストランの開店につながった。
 その店で担々麺が完成し、なぜかJR東日本のグループ会社の人々がよく訪れるようになった。下川さんは「自由が丘にJRはないのになあ」と不思議に思っていたところ、ある日、その会社から東京駅に出店する話を持ちかけられた。「人にも自然にも優しいライフスタイル」をコンセプトに新しくオープンする京葉ストリートの飲食店を探していたわけだが、そのコンセプトは下川さんの理念とぴったりと一致し、自由が丘のレストランがオープンしてわずか半年後には東京駅への出店が決まった。それからメニューの研究に半年を費やし、東日本大震災の9日後、2011年3月20日にオープンした。
 それ以来、「カラダが喜ぶお料理で、お客さまを笑顔に」という意味を込めた「スマイルベジ」をキャッチフレーズに改良を重ねてきている。

スマイルベジ

外国人に大人気、トリップアドバイザーで上位に

外国人に人気の黒胡麻たんたん麺(1000円)

 「T’sたんたんに来られない外国の方から、SNSによる応援メッセージをたくさん頂き、感謝していますと世界に伝えてください」。下川さんにそう言われた。コロナ渦で訪日外国人は激減したが、それまでは店内の客の9割が外国人という時もあったほど、海外ではよく知られている。世界的な口コミ旅行サイト「トリップアドバイザー」で2020年、東京駅エキュート京葉ストリート店は、旅行者の評価で選ばれる「トラベラーズ・チョイス」を受賞した。全世界の飲食店の上位10%に入ったという。
 下川さんがこんな思い出を振り返った。浜松町駅で電車を待っていたら、ホームに切符が落ちていた。拾って、目の前にいる外国人女性3人組の旅行者に尋ねたところ、その中の1人が落としたものだった。スウェーデンと英国から来たという3人は、「これから東京駅のT’sたんたんに行くの」と話した。下川さんは、あまりの偶然にびっくりし、うれしくて会話が弾んだ。

季節限定の味も開発、「ときめき」も発信

季節限定メニューを考える金子さん

 外国人客はまだ戻ってこないが、メニューを一新し、テイクアウトも始めるなど努力を重ねた結果、日本人の女性客だけでなく、コロナ渦で健康を気にする男性客も増えてきた。JR東日本クロスステーションの金子照美さんは、季節限定メニューにも力を注いでいる。昨年は瀬戸内レモンのラーメンなど6種類を提供した。SNSへの投稿も増え、それを見た人々が訪れるようになり、大人気だった。金子さんは「何かが下りてくるように、アイデアがぱっとひらめくんですよ。でも味には一切妥協してません」と語る。その笑顔を見ていて、本当に楽しんでいる気持ちが伝わってきた。
 店名のTは、担々麺のTだけではない。「太陽」「土」「食べる」「テイスト」「丁寧」「つながり」……。わたしはそこに「ときめき」を加えよう。


森太さん
森 太(もり・ふとし)

読売新聞編集委員。ロンドン駐在中に日本のラーメンの魅力を再発見。アフリカ、欧州、社会部、国際部、運動部を遍歴し、読売新聞の英字新聞「The Japan News」デスク。The Japan NewsでRamen of Japan 連載しているほか、Delicious, Beautiful, Spectacular Japanを担当している。


【英語版はこちら】

T’s Tantan: Inspired vegan ramen to make you smile

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