さわやかな秋晴れの昼下がり、六本木の東京ミッドタウン周辺は大勢の人が行き交っていた。緊急事態宣言が解除され、街はにぎわいを取り戻しつつある。真新しいラーメン店、入鹿TOKYOは東京ミッドタウンの真横という一等地にあった。10月10日にオープンしたばかりで、店は幅広く道路に面しているので見つけやすい。

入鹿TOKYOの外観。東京ミッドタウンの真横にある

 「六本木に出店するのがずっと夢だったんです」。店主の小川和弘さん(39)はそう切り出した。小川さんは2年前、ここから約30㌔離れた東京西部・東久留米に1号店を出店。そこが繁盛し、地元ファンの熱い声援も受けて、2号店として開いたのがこの店だ。ランチタイムには早くも周辺の会社員らが行列をつくる。

ゆったりとした空間で味わう、美しき「ポルチーニ」

お盆も輝いていて豪華なラーメンだ

 さっそく小川さんの自信作、ポルチーニ醤油(しょうゆ)らぁ麺(980円)と特製トッピング(450円)を券売機で購入して注文した。小川さんは「これは、ぼくが個人的に突き詰めたオリジナルのラーメンです。店の看板メニューはゆず塩らぁ麺ですが、圧倒的にポルチーニのほうが売れていますね」と話す。

ゆったりした入鹿の店内

コロナ対策の仕切り板にもイルカ

注文は券売機で

 店内は高級感がある。設計した建築家は、小川さんの中学時代からの同級生だという。カウンター8席と4人がけのテーブル席は、ゆったりとした作りだ。できあがったラーメンがカウンターに置かれる。まず、美しいと思った。スープと麺、トッピングの色もバランスもとてもいい。そして芳醇な香りが漂ってくる。食べるためにこれを壊してしまうのが、もったいないという気にさえなってくる。

平打ちの太麺にぜいたくなスープ

 スープは、シャープな印象の中に豊かな味わい深さがある。小川さんに理由を聞いて納得した。「鶏は名古屋コーチン、豚は薩摩の黒豚、エビは三重の伊勢エビ、貝はムール貝を使い、これら4種類のスープを別々につくって寝かせてから一つに合わせています。これに乾燥ポルチーニ茸(だけ)の香りを移した油を使っています。化学調味料は一切使用していません」。何とぜいたくなスープだろうか。

ポルチーニ醤油ラーメンに使われる平打ち麺

 製麺会社に特注している麺は、切り口が長方形の平打ちの太麺。スープとの絡みはもちろんいいのだが、舌触りの面白さを追求したのだという。ゆず塩らぁ麺には正方形の麺を使用していて、小川さんは「麺の違いも楽しんでほしい」という。

「森の幸のペースト」に特製トッピング

 もちろんトッピングもこだわり抜いている。ポルチーニ醤油らぁ麺には、豚と鶏のチャーシュー、メンマ、産地直送の九条ネギがつく。そして、注目は「森の幸ペースト」。これは、ポルチーニの香りをさらに高めるための仕掛けで、数種類の旬のキノコを煮込んだ後、ブレンダーにかけて毎日作っている。食べている途中でスープに混ぜると、本当に森の中にいるような香りに包まれた。
 追加した特製トッピングは、鴨(かも)のチャーシュー2枚、鶏団子とエビ団子、味玉子がついてくる。鶏団子はゆずとバジル、エビ団子は桜エビとピーナツが使われているそうだ。すべて自家製でおいしく、ぜいたく感が高まる。
 これは、六本木という一流の場所で味わえる一流のラーメンであることに間違いない。

バンドマンからラーメン業界に

 小川さんは29歳のときにラーメン業界に入り、10年でここまで到達した。出身は名古屋で、上京したのはバンドをやっていたからだ。「LEG’end PRIMe」というロックバンドのギタリストだった。バンド活動の傍ら、生活のために働き始めたのが六本木にある名店「AFURI」だった。「ラーメンとの出会いは偶然だったんですが、とても好きになりました。もっと知りたい、いろんなラーメンを作れるようになりたいと思うようになったんです」

小川和宏さん(中央)とスタッフ。ノリがいい

 その後、新宿・ゴールデン街の「凪(なぎ)」を経て、東京・葛飾の「麺屋一燈」で3年間修業した。小川さんが振り返る。「バンドはそうこうしているうちに解散し、凪さんでそのままやっていこうかと考えたのですが、どうせなら日本一の店で修業して自分の店を持ちたいと思い、一燈さんで勉強させていただいた。そこで3年修業しようと決めて、3年間やってから開業したんです」
 といっても、開業資金はなかった。修業時代の給料は、研究費として調味料や食材に使っていたからだ。母親と友人からお金を借り、出店できたのが東久留米だった。「でも、それが本当によかった。うちの店は東久留米でつくられたといっても過言ではない」。地元の幅広い年代の人々に愛され、お年寄りも行列に並ぶようになった。

夢は海外展開

 「ラーメンと曲作りは似ている」と、小川さんは言う。「高音は塩味、中低音はうまみとか甘みかな。どちらもオリジナルで勝負するでしょ」。六本木というステージで、小川さんは自分のオリジナルラーメンという「曲」を演奏しているのだ。

ダイナミックな仕草で麺を湯に投入する

 夢には、次のステージがある。それは海外出店だ。特にハワイに進出したいと思っている。店名の入鹿は、小さい頃よく釣りをした愛知県犬山市にある池の名前だが、小川さんは「単純ですが、ハワイとイルカのイメージが合うと思った」と話す。これに、海外の人が東京からやってきたラーメン店だとわかるようにTOKYOをつけた。
 「ラーメンはすごく進化している。どんな味もあるし、どれもおいしい。これからも、だれもやっていないものを作り、お客様に喜んでいただきたい。ずっと現場に立ち続けるつもりです」。その言葉は、力強かった。


森太さん
森 太(もり・ふとし)

読売新聞編集委員。ロンドン駐在中に日本のラーメンの魅力を再発見。アフリカ、欧州、社会部、国際部、運動部を遍歴し、読売新聞の英字新聞「The Japan News」デスク。The Japan NewsでRamen of Japan 連載しているほか、Delicious, Beautiful, Spectacular Japanを担当している。


【英語版はこちら】

Iruca Tokyo: Rockin’ porcini ramen in Roppongi

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