横浜を訪れると、自然と気持ちが高まり、昔よく通った本牧のソウルミュージックバーの音楽が心の中で流れ出す。港の向こうに開けた視界と潮風が心地いい。ラーメン店・横浜丿貫(へちかん) は、横浜駅に直結するビルの1階にある。18店の飲食店が集まるフードストリートにあり、独特のラーメンを提供する。その特徴は、大量の煮干しを煮込んでつくる濃厚なスープにある。店に入ると、若くてハンサムな牧瀬優佑店長(25)が迎えてくれた。さっそく看板メニューの煮干しラーメン(税込み850円)をいただく。

 「大きな寸胴で1日5㌔くらいの煮干しを使ってスープを作ります」。牧瀬さんが説明する。「火にかける時間はそんなに長くありません。だしをとる感覚ですね。煮干しの量からスープの濃さが出ているんですよ。今日は、鳥取県・境港産のイサキ7割、ヒラゴ3割でスープをとりました」

 ラーメンが完成し、カウンターに置かれた。チャーシューと、ざっくりと大きめにみじん切りされたタマネギだけが載ったとてもシンプルなラーメン。だが、薄茶色に見えるスープは存在感がある。さっそく一口すすってみると、意外にもさらっとしていて驚いた。味はしっかりと濃く、煮干しのうまみが感じられる。魚の生臭さは感じられない。食べやすく、とてもおいしい。 

 スープを開発したのは、佐藤義大(よしひろ)社長だ。「九州で食べた煮干しラーメンがおいしくて、そのスープの煮干しを探したところ、境港で水揚げされた煮干しにたどりついたんです」と、牧瀬さんが説明する。だから丿貫では、境港産の煮干しを基本とする。その時期のおいしい煮干しを各地から仕入れもする。夏はアジの煮干しなど季節によって異なり、それらを惜しみなく使っているのだという。 
 境港から車で30分ほどの米子には、丿貫の支店があり、常にいい煮干しを仕入れられるルートを作っている。スープに力を入れているので、返しはシンプルに醤油だけを使う。   

 麺は、東京の製麺会社に依頼して作ってもらっている国産小麦の細麺。癖の強いスープの時は、特別な小麦粉を使った茶色の香りの強い麺を使うこともある。チャーシューは、豚肩ロースを低温調理した自家製。みじん切りのタマネギは、「煮干しスープとの相性が抜群にいいからですよ」と夜の店長を務める佐藤真幸(まゆき)さんが説明する。
 「シャキシャキと食感がよく、甘みがあります。その甘みがスープのうまみを引き立てるんです」 店は、昼と夜で二人の店長が交代する。夜の部は、佐藤さんが厳選した日本酒も楽しめるスタイルとなる。日本酒と小皿料理の後、最後にラーメンでしめる。といっても、ラーメンを食べなくてもいいし、ラーメンだけ食べてもよく、細かいルールはない。日本酒への思いが人一倍強い佐藤さんが言う。「生酒を中心に5、6種類のお酒を出しています。飲みたいなと思っていてもなかなか飲めない酒、知られていないけどおいしい酒、お客さんに飲んでほしい酒ですね。純米酒が基本的にうちのラーメンには合いますよ」

 丿貫はフランチャイズ店も含めて6店舗あり、2年前にオープンした横浜店は4号店。もともとは横浜でスナックの店舗を間借りして営業していたのが、人気が出て、4年前に本店となる1号店を横浜・福富町に開店した。このため歴史はそう長くない。横浜は外国人も多く、慶応大学に通う、やはりイケメンスタッフ炭竃大士郎(すみかま・だいじろう)さんは英語もスペイン語も話せる。この店は、イケメン揃いだ。

 丿貫の特色は、もう一つある。それは毎日、日替わりの限定ラーメンがあることだ。取材に訪れた日は、あさりラーメンと四川カレーラーメンがあり、四川カレーラーメンも食べてみた。煮干しとカレーを合わせたスープはとても辛かったが、汗が出てすっきりした気分になった。

 日替わりメニューを考えるのは店長の仕事で、ここが牧瀬さんの腕の見せどころとなる。毎日違うラーメンを食べられるので客も途切れない。横浜店では牡蠣の冷やしラーメンや、オマール海老のラーメンを出すことがあり、オマール海老のラーメンにはこれによく合う岡山県・蒜山(ひるぜん)産の特別なバターのトッピングを追加注文できるという。

 ところで、丿貫という店名は日本人でもなかなか読めない難しい名前だ。戦国時代から安土桃山時代にかけて活躍した伝説的な茶人の名前で、独自の茶道を追求した人物。ラーメンの丿貫も、独自のラーメン道を歩んでいるようだ。


森太さん
森 太(もり・ふとし)

読売新聞編集委員。ロンドン駐在中に日本のラーメンの魅力を再発見。アフリカ、欧州、社会部、国際部、運動部を遍歴し、読売新聞の英字新聞「The Japan News」デスク。The Japan NewsでRamen of Japan を連載しているほか、Delicious, Beautiful, Spectacular JAPANを担当している。


【英語版はこちら】

Hechikan: Niboshi fish broth ramen with universal appeal in Yokohama

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